Study Room of Akihiro HIRAYAMA,
lecturer at Department of World Liberal Arts, Nagoya University of Foreign Studies
「2019年度 海外研修 III A 」中止後の特別授業
※ 2月27日(木)に,コロナウイルスの流行に関連した政府方針として,小中高,および,特別支援学校を3月2日(月)から臨時休校とする方針が示されました。臨時休校の対象に大学は含まれてはいませんが,「2019年度海外短期研修IIIA(フィリピン)」中止後に実施してきた特別授業につきまして,現在のウイルスの流行状況を鑑み,3月2日(月)からの予定分を中止といたします。なお,今後の状況の変化を注視しつつ,可能であれば,特別授業の再開を検討いたします。
※ コロナウイルスが流行する状況が改善されることを願いつつ,いまの状況でもできる「学び」はないか,考えました。そして,SNS やメール,ビデオ会議アプリケーションを使用してコミュニケーションをとり,オンラインで学習を再開することにしました。下の写真は,オンラインでの授業の模様です。
※ 本特別授業は2020年3月までとし,4月からは,学生有志による授業外勉強会に移行します。
国際協力団体を訪問し,話を伺う
WAFCA (Wheelchairs & Friendship Center of Asia) 訪問
特別授業を中止とする直前に,認定 NPO 法人「アジア車いす交流センター」にお邪魔しました。WAFCA は,「日本及びアジアでの車いすの普及活動を通じて,障がい者が社会で自立できる環境づくりを行う」ことと,「スポーツ,教育分野における支援,交流を通じて,バリアフリー社会の実現に寄与する」ことを目的とした認定 NPO 法人で,「タイ,中国,インドネシアにて,政府支援が行き届かない地域で下肢障がいの子ども達に“車いす寄贈”をして,障がい児の自立を支援」しています (WAFCA ホームページより)。WAFCA を訪問する機会は,長年にわたり愛知淑徳大学で教鞭をとられ,国際貢献に取りくむ人材を数多く育成されてこられた尊敬すべき教育者であり,WAFCA 代表を務められる榎田勝利先生に頂戴いたしました。
WAFCA では,事務局長を務められる熊澤友紀子さんから,障がい者の人権という観点からの WAFCA のこれまでの活動について,詳しくお話を伺いました。お話を伺ったあとには,事務局の近藤みなみさんのご指導のもと,車いすの点検,分解,組み立てを体験することができました。そのように時間を過ごす中,榎田先生と事務次長の関谷司さんが,私たちの学習をサポートくださいました。WAFCA の皆さまには,私たちを暖かく迎い入れてくださいましたこと,心から,お礼申し上げます。この訪問のあと,特別授業は中止となったのですが,オンラインでのやりとりを介して,学生たちが WAFCA 訪問で得た「学び」をまとめてくれました。このまとめは,つぎの手順で作成しました。[1] 「学んだこと」「社会問題にりくむにあたって求められると感じた能力」「気になったこと」の 3 項目をたて,それらの項目内に,学生各自が自分の意見,見解を箇条書きで書き込む[2] 箇条書きで書き込まれた意見,見解を,分類して整理する学生は,みな,WAFCA の活動に自分の身を重ねあわせて,「もし自分がこういった活動をするんだったら,どういった点を気にする必要があるか」という視点を大事にしながら,まとめを作成してくれた印象です。まとめのファイルは,こちらからご覧ください。
国際協力,開発,マネージメントを学ぶ
【使用教材】
● エステル・デュフロ著,峯陽一,コザ・アリーン訳『貧困と闘う知――教育,医療,金融,ガバナンス』みすず書房,2017年。
邦訳されたデュフロの著作は,この『貧困と闘う知』,もう一冊の『貧乏人の経済学』(アビジット・バナジーとの共著)も,ここ数年で読んだ本のなかで最良のものと感じており,さまざまな授業のなかで使用してきました。昨年 2019 年の秋に,デュフロ(とバナジー,マイケル・クレーマー)がノーベル経済学賞を受賞したというニュースにふれたときには,なんだか感慨深い思いがしました。さて,デュフロの『貧困と闘う知』と『貧乏人の経済学』は,いずれも,国際協力や開発の諸実践の効果を測定するにあたり,恣意的で視野狭窄の思い込みや直感を排し,それら諸実践が実際に社会に与えた影響と費用対効果を,厳格に把握して評価する方法を追求しています。『貧困と闘う知』の訳者の峯氏は,「訳者解説」のなかで,『貧乏人の経済学』と『貧困と闘う知』のスタイルの違いについて,前者が「『人情味』が濃い」のに対して,後者が「『科学と使命感で押していく』ような印象を受ける」と述べられています。的を射ている,と感じます。『貧乏人の経済学』のほうが,ウィットに富むような表現や事例提示が見受けられ,ちょっとした「遊び」が感じられるのに対して,『貧困と闘う知』は「真剣勝負」というか,論理的に,力強く,緻密に議論を展開している印象です。どちらのスタイルも魅力に満ちているのですが,特別授業では,『貧困と闘う知』を選んで読むことにしました。参加学生に,なんとなく本文を読んで内容をわかった気持ちにならずに,論理的な議論の展開をしっかり理解して追いかけて,議論の論理性の重要さを学んでほしい,という思いからです。その学びを通して,論理的な思考に基づいて,国際協力や開発の諸実践について考察する力を身につけてほしいと考えています。ベンチの写真は,小春日和の昼下がりに,教室の外のベンチで勉強したときのものです。写真のホワイトボードは,本の内容を,学生が議論しつつまとめていったものです。
● Ian Goldin, Development: A Very Short Introduction, Oxford: Oxford University Press, 2018.
オクスフォード大学出版局の定評のある学問入門書シリーズ A Very Short Introduction の一冊。A Very Short Introduction シリーズは,内容がコンパクトで優れたものが多く,授業準備の際に活用することが多いです。Development も,内容がコンパクト,かつ,優れています。そこでは,開発をめぐるさまざまな論点が丁寧に議論されており,また,それら論点が議論されてきた経緯もしっかりと紹介されています。近年,日本でも,「6 人に 1 人 (または 7 人に 1 人) が相対的貧困」といわれます。Development は,そもそも貧困とはなんなのか,開発の目標とはなんなのか,貧困の状態や開発の成果はどのように指数化され,把握されうるのか,といった問題を深く考えさせてくれます。入門書とはいえ,学生にとっては,英文で書かれた専門的な内容の議論を理解するのはなかなか大変です。皆,悪戦苦闘しながら,読解に取りくんでいます。日本にいるあいだに苦労を重ねた分だけ,留学先で得るものも大きくなるはず! がんばりましょう!
● 『「援助」する前に考えよう――参加型開発とPLAがわかる本』開発教育協会,2006年。
開発教育協会 (DEAR: Development Education Association and Resource Center) の参加型学習教材。ロールプレイをしたり,シミュレーションをしたり,議論したり,といったアクティビティのためのDEAR の教材は,いつも重宝しています。そうした教材のひとつである『「援助」する前に考えよう』は,国際協力や開発の諸実践が,それら諸実践の担い手の側の自己満足やアピールのためになされるべきではないことを気づかせてくれ,そして,対象となる現地の人びととどのようにかかわることが,その人びと自身のためになるかを考えさせてくれます。アクティビティのための教材として,ほかには,宮内泰介著『グループディスカッションで学ぶ社会学トレーニング』三省堂,2013年や,佐原隆幸,徳永達己著『国際協力アクティブ・ラーニングーーワークでつかむグローバルキャリア』弘文堂,2016年も活用しています。国際協力は開発のあり方をめぐっては,田中優著『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』河出文庫,2017年も参考にしています。
基礎的な英語力を高める
【使用教材】
● Ann Cook, American Accent Training, 4th edition, NY: Barrons Educational Series, 2017.
アメリカ英語の発音のリズムやピッチ,強弱のつけ方の規則を学び,練習できる本。きれいに話す技術が身につくと同時に,聞きとりの技術も高まります。現在は第 4 版のこの本の初版がでたのは,1990 年代のことでしょうか。むか~しむかし,過去のいずれかの版を平山も活用しました。はじめて手に取ったときは,かなり衝撃を受けたのを覚えています。「duh duh duh, la la la, mee mee mee, ho ho ho」という発音を,CD の音につづけて繰り返す練習があったり,"Bob is on the phone." という英文を,5 つの単語ごとに区切って発音してはならず,"bä bizän the foun" という 4 つの音節で発音すべし,という説明があったり,日本の教材とスタイルがかなりちがうなぁ,なんだか楽しいなぁと感じました。と同時に,説明が明快ですし,やる練習も明確な意図があるので,納得しながら先に進んでいくことのできる教材です。素晴らしい名著です。
● Raymond Murphy 著,渡辺雅仁訳『マーフィーのケンブリッジ英文法 (中級編)』
第 3 版,ケンブリッジ大学出版局,2017年。世界中で標準的に使用されている英文法の解説・練習問題書籍シリーズ Grammar in Use のうち,アメリカ英語版中級編の邦訳。あまりに著名なので,ここで多言を費やすのは避けます。たくさんのホームページで紹介されているので,検索してみてください。文法の確認にあたっては,高校で使用した教材も再利用できます。また,英文解釈・構文の教材も再利用できます。(『英文解釈の技術』シリーズや,『英語の構文150』など)
感受性と理解力を高め,その幅を広げる
日本で,そして,日本の外で,どこかの場所にいったときに,目の前に広がる光景,その光景のなかに存在するさまざまな物,それらの物とかかわる人びとの営みにふれ,なにを感じとり,どういった意味を引きだすかは,個々人が備える感受性と理解力に左右されます。感受性や理解力が高く,その幅が広ければ,それだけ,より多くの情報を,目の前の現実から引きだせるでしょう。新聞や雑誌の記事,学術的な文献,ルポルタージュや小説,フィクション映画やドキュメンタリー映画など,それら感受性や理解力を涵養する養分になるものはたくさんあります。勉強会では,さまざまな種類の文章と映像にふれる機会を,学生に提供しています。
例えば
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辺見庸著『もの食う人びと』角川文庫,1997年 (原本1994年)。 ⇒ ロヒンギャの難民キャンプの話がでてきます。
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「行き場を失う無国籍の民 ロヒンギャ」『中日新聞』2017年12月3日日曜版
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天野正子,桜井厚著『「モノと女」の戦後史――身体性・家庭性・社会性を軸に』
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平凡社ライブラリー,2003年 (原本1992年)。
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藤林泰,宮内泰介編著『カツオとかつお節の同時代史――ヒトは南へ,モノは北へ』コモンズ,2004年。
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宮内泰介,藤林泰著『かつお節と日本人』岩波新書,2013年。